ヘリコバクターピロリ菌
現在の日本人の約半分の6000万人が、ヘリコバクターピロリ菌に感染しているそうです。そして、60歳以上の70~80%の人がピロリ菌に感染しているようです。10歳では、約1割にとどまっていると推定されています。
ヘリコバクターピロリ菌が恐ろしいのは、胃がんの原因とされているからです。胃がん患者のほとんどがビロリ菌の感染者であり、ビロリ菌の感染者からの胃がん発生率は約1%(2005年9月)だそうです。
ピロリ菌感染者は、全員除菌すべし(胃がん予防)
2009年3月、日本ヘリコバクター学会が診療のガイドラインを改訂して「ピロリ菌感染者は、全員除菌すべし」としました。健康保険は適用されませんから、自費で約3~5万円かかります。しかし、ピロリ菌の除菌をしなければ、胃がんの発生率が3~11倍高くなるそうです。
胃潰瘍などの症状がある人は、ピロリ菌の除菌が保険適応になります。
身内に胃がん楽天 患者がおられる人、おられた人は、早速検査を受けて除菌されることをお勧めします。4年前は、「なるべく早く除菌しましょう」という程度でしたが、「今すぐ除菌」に変更されました。
ピロリ菌は、免疫力の弱い5歳ぐらいまでの子ども時代に感染します。そして、ピロリ菌の除菌をしないでいると、慢性胃炎へと進み、その後萎縮性胃炎へと進みます。胃壁の萎縮が進むほど胃がんの危険性が大きくなります。
日本ではピロリ菌の除菌が進み、今後20年で感染率は20%ぐらいに下がるだろうと見られています。
ヘリコバクターピロリ菌
ヘリコバクターピロリ菌は、ヘリコはねじれた形という意味で、バクターは菌という意味で、ねじれた形の菌です。ピロリは、胃の出口、ゆう門のピュロールスというラテン語から来ているそうです。
ピロリ菌を発見したバリー・マーシャル・西オーストラリア大教授
バリー・マーシャル教授は、同僚だったウォーレン医師とともに「ヘリコバクター・ピロリ菌の発見と胃炎、胃・十二指腸潰瘍における役割の解明」で、2005年にノーベル生理学・医学賞を受賞されました。
バリー・マーシャル教授は、1951年、オーストラリア西部のパース近くで生まれました。西オーストラリア大学を卒業し、米バージニア大教授などを経て、1997年から西オーストラリア大教授をされています。
1980年代初期に内視鏡検査を受けに来た100人の胃を調べたら、十二指腸潰瘍のあった13人全員と胃潰瘍の22人中18人からピロリ菌が見つかりました。
ピロリ菌が胃潰瘍を起こすという新理論を発表しようとしましたが、医学誌に論文を掲載する機会を与えてもらえなかったそうです。データが少ないのと、消化性潰瘍の原因はストレス、強酸性の胃に微生物は生息できないという当時の医学の常識を覆せなかったそうです。
そこで、実験ですが、適切な動物モデルがなく、自分の体で試すしかなかったそうです。ピロリ菌の液体を飲むと、数日後に何度も吐いたそうです。ウォーレン医師が内視鏡で観察すると激しい胃炎が起きていました。
1995年にこの研究成果を発表しました。常識を改めるのに12年以上かかったようです。
ピロリ菌の遺伝子の変化を調べると、アフリカから端を発した人類が世界各地にどのように拡大したかがわかるそうです。
ピロリ菌に感染したら必ず病気になるわけではありません。ピロリ菌を排除しようとする免疫反応の強い人の方が、かえって潰瘍などが起こりやすいそうです。
バリー・マーシャル教授は、有害な遺伝子を取り除いたピロリ菌を、ワクチンに応用しようと考えています。他の病原体のDNAを無毒化したピロリ菌に入れます。飲むだけで、インフルエンザ、マラリア、エイズなどを予防・治療する手段が、10年程度で登場するかもしれないと、言われています。2010.11
世界のピロリ菌感染の現状
オーストラリアは、飲料水がきれいで気候も乾燥しているので、感染率は15%くらいです。アジアや中東、アフリカ、南米からの移民では、50%にも及びます。この差は、免疫力の弱い3歳ごろの生活環境の違いが大きく影響していると言います。
インドネシアでは、ピロリ菌の感染率が2~3%と低いようです。食生活と関係ある可能性が指摘されています。食品で除菌する研究を促進する必要があるようです。
ピロリ菌に感染しても、がんになる人は年間0.5%程度のようです。がんになる人だけ除菌するのがよいが、現状では難しいようです。耐性菌の出現により、日本の1次除菌の成功率は、7割を切っています。
ピロリ菌の感染を防ぐには
ピロリ菌には、5歳以下の幼少期に感染しています。胃にいるピロリ菌が口を通してうつります。母親が胃潰瘍だと子どもにうつる可能性が大きいです。
赤ちゃんの時に、母親が噛んだ食べ物を与えてはいけません。げっぷした後のキスでうつることもあります。吐物や下痢便などからの感染もあります。
生まれた時には誰もピロリ菌に感染していません。井戸水にピロリ菌が含まれていることもあります。ピロリ菌が球状になると冬眠中で長く生きるそうです。
10歳のピロリ菌の感染率は、約10%だそうです。両親の感染の有無を先に調べ、感染していたら、子どもも調べた方がよいそうです。
胃潰瘍のでき方
1995年1月17日の阪神・淡路大震災直後、胃潰瘍が増えたそうです。その83%がピロリ菌感染者で17%は薬の副作用だったそうです。
胃潰瘍は、まず、ストレスが起き、胃酸が増えます。そして、ピロリ菌がいる胃に胃潰瘍ができます。胃酸は塩酸という強い酸でできています。ピロリ菌は胃酸に強いので胃の中で生き延びているのです。
タバコを吸うと胃酸の減少や胃粘液の減少が起きます。また、ストレスで胃の血液が減ると、胃潰瘍になります。胃潰瘍を繰り返している人にはピロリ菌がいるそうです。
ピロリ菌は、毒素を出すため、胃粘膜が炎症を起こして胃炎になります。自覚症状はないが、慢性胃炎を経て2~5%が胃潰瘍に、0.2~0.5%が胃がんになるとされています。
胃壁が薄くなる「萎縮性胃炎」になると、胃がんになる危険が高まることがわかっています。薄くなった胃壁を修復しようと正常細胞が再生される過程で遺伝子が傷つき、ガン化すると考えられています。
胃で住むためのピロリ菌の工夫
- 胃酸を減らす
- ピロリ菌には、毒針が生えています。その毒針を胃の壁に刺して、胃壁細胞を殺し胃酸を減らします。そうなると、ピロリ菌は楽に暮らせます。
- 胃酸を中和
- ピロリ菌は胃液からアンモニアを作り、胃酸を中和させ生き残ります。
- 粘液を減らす
- 胃壁の粘液を出す所も攻撃し、ストレスがかかると粘液が減ります。
ピロリ菌と胃潰瘍、ピロリ菌と胃がん
胃潰瘍の患者は50万人、十二指腸潰瘍の患者は10万人と言われてます。病気のある人の除菌には、健康保険使えます。今すぐ除菌をしてください。
ストレスのある人は、なるべく早く除菌した方がいいです。が、検査・除菌に保険がききません。自費で約3~5万円かかります。
胃がんでは、毎年5万人が亡くなっています。
実験でスナネズミにピロリ菌を飲ませたそうですが、1年間1匹も胃がんにならなかったそうです。変異した細胞は自爆して体を守ろうとする機能があるからのようです。自爆ボタンを壊す物として、高血糖、喫煙(タバコ)、塩があげられています。自爆ボタンが壊れるとガン化して、胃がんになります。
ピロリ菌感染+(高血糖、喫煙、塩分)での胃がんの罹患倍率
ピロリ菌感染なしを1として、ピロリ菌感染ありで血糖正常の場合は2.2倍、ピロリ菌感染ありで高血糖もありの場合は4倍でその数445万人と言われています。
ピロリ菌感染なし喫煙(タバコ)なしを1として、ピロリ菌感染ありで喫煙なしの場合は1.6倍、ピロリ菌感染ありで喫煙ありは11倍でその数は約1200万人と言われています。
スナネズミの実験では、ピロリ菌感染あり、がんになりやすい薬、塩分適量の場合を1として、ピロリ菌感染あり、がんになりやすい薬、塩分とりすぎの場合は3倍になるそうです。
ピロリ菌感染あり塩分とりすぎの場合は、約3600万人(先の条件と重なっている人もいます)と言われています。
ピロリ菌を除菌さえすれば、胃がんは防げるか
40歳代男性、胃潰瘍の症状が出て除菌し、胃がんが防げると思っていたが8年後に胃がんが発生した。この場合は、除菌する前にすでに小さな胃がんがあって除菌後に育ったと考えられるそうです。
萎縮性胃炎があると、胃がんになる危険性が高まります。萎縮性胃炎の有無を血液検査(ペプシノゲン法)で確認することができます。胃がんの予防には、ピロリ菌だけでなく、ペプシノゲン法を受けて欲しいそうです。
ただ、無症状で菌の有無た゜け調べる人や、ペプシノゲン法には保険は適用されないそうです。
ペプシノゲン法とピロリ菌検査による胃がんリスクの判定方法
ペプシノゲン法 | ピロリ菌検査 | 1年間に胃がんを発症する割合と 内視鏡検査の必要性 |
---|---|---|
陰性 | 陰性 | ほとんどなし。無症状ならば検査は必要なし |
陰性 | 陽性 | 0.1%程度。3年に1回検査 |
陽性 | 陽性 | 0.2%程度。2年に1回検査 |
陽性 | 陰性 | 1.25%程度。毎年検査 |
ピロリ菌の感染の有無を調べる検査法
- 呼気検査 検査薬を飲んでから二酸化炭素の量を調べます。料金は約8000~10000円です。
- 内視鏡検査 内視鏡で胃の中をよく見ます。また、組織を取って来て調べます。空腹時に行い、2~3時間かかります。費用は約2万円です。
- 血液検査 血液で抗体検査をします。
- 尿検査・便検査 尿や便を使っても調べられます。
ピロリ菌感染の除菌方法(治療)
以下は、東海大教授・高木敦司さんのお話などをもとに書いています。
日本ヘリコバクター学会が2009年に出した「ピロリ菌感染の診断と治療のガイドライン」は、胃・十二指腸潰瘍、悪性度の低い胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃がんで内視鏡治療した後に対し、ピロリ菌の除菌を推奨し、実際、保険で除菌治療が認められています。
国内で行われている除菌方法は、最初に胃薬の「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」と2種類の抗生物質「アモキシシリン」「クラリスロマイシン」を7日間服用します。
しかし、クラリスロマイシン耐性菌が出現し、問題になっています。
2005年の学会の調査で、耐性菌は全国平均で3割近くの保菌者に見られ、最初の除菌に失敗する人が増えているそうです。2次除菌として、クラリスロマイシンの代わりに、「メトロニダゾール」という抗生物質を用います。
しかし、これでも除菌に失敗する人もいますが、日本では3次除菌は確立していないそうです。
米国の専門家は、以下の方法が効果的だったと推奨しています。
- 日本の除菌で使う計4つの薬を一度に使う方法
- 10日間の除菌療法で、前半5日間の2剤投与で菌量を減らし、後半で別の2種類の薬を使う方法
だが、日本ではいずれも認められていません。
ピロリ菌除菌と明治LG21ヨーグルト
東海大教授・高木敦司さんは、除菌率を高めるために、治療の前に「LG21」というヨーグルトを食べるという研究を進めているそうです。LG21ヨーグルトを1日2個、3週間食べた人の除菌率は約8割だそうです。食べずに除菌した人は約7割という結果が出たそうです。ヨーグルトの中の乳酸菌が耐性菌を抑えるということがわかったそうです。
保険適応でない場合には、除菌の費用は検査も含めて約5万円くらいかかるそうです。
遺伝子検査で除菌に効く薬を事前判定することも
三重大学のオーダーメイド医療部では、遺伝子検査などを基に、患者一人一人の体質や症状に合った医療を行います。
ピロリ菌の除菌治療に使われる「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」の効き具合を調べてくれます。
ある男性は、爪の切れ端から遺伝子情報を解析してもらいました。この男性は「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」を早く分解してしまう体質のため、薬の量を通常の2倍に増やして飲むことになりました。また、治療に使う抗菌剤の一つが効かないことも、別の病院の事前検査で確認できていたそうです。
自分に本当に合う薬を事前に調べてもらうことで、1回で除菌できて良かったと感謝されています。
内視鏡治療後にもピロリ菌の除菌を
早期胃がんは、内視鏡治療によりお腹を切らず治せます。早期胃がんの場合、治療後に約1割の患者に新しい胃がんが発生するそうです。
日本ヘリコバクター学会は、2009年1月に早期胃がんの内視鏡治療後に、ピロリ菌除菌を強く勧める新たなガイドラインを発表しました。