多剤耐性菌
膀胱炎や腎盂腎炎の80%は、大腸菌が原因だそうです。そして、その菌の15%以上が耐性菌だそうです。アメリカでは、耐性菌で23000人もの死亡が確認されています。不必要な抗生剤を減らすことが求められています。最近問題になっているCRE(カルバペネム耐性腸内細菌)などの多剤耐性菌について学びたいと思います。
多剤耐性菌とは
複数の抗生物質が効かなくなった細菌のことです。最近では、多剤耐性アシネトバクター(海外から持ち込まれ院内感染する例が増えています)や新型の多剤耐性大腸菌の感染例がよくあげられています。
以前よく聞かれていた多剤耐性菌は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)や多剤耐性緑膿菌などでした。
多剤耐性菌の作用
- 抗菌薬楽天 を分解する力を持った
- 多剤耐性大腸菌はNDM1酵素を持ちます。多剤耐性肺炎桿菌はKPC酵素を持ちます。そして、それらの酵素が抗菌薬を分解して効かなくしてしまうのです。これらの菌がより病原性の高い赤痢菌やサルモネラ菌に遺伝子が移行することが懸念されています。
- 細胞の表面が変化し抗菌薬が効かなくなった
- メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などです。
- 細胞内の抗菌薬を排出する力が高まった
- 多剤耐性緑膿菌などです。
多剤耐性菌の感染防止策
昭和大学・二木芳人教授は、耐性菌の割合が5%を超えると、日本中に広まる恐れがあると心配しています。抗菌薬は適切こ使うこと、むやみに使ったり、不十分な量で治療したりすると、耐性菌の勢力が強まるそうです。対策として、多剤耐性菌を早く見つけ、迅速に対応することが求められています。
- 多剤耐性菌の感染防止策
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- 抗生物質の不適切な使用を止める・・・特に風邪はウイルスが原因なので、抗生剤は効かない。患者も医師も安易に抗生剤を使用しない。
- 病院内での多剤耐性菌の感染を監視し、食い止める対策を万全にする。病院内の全体の感染症に、にらみをきかす感染症の専門医チームを組織して、早期対策をする。
- 新しい抗生物質の開発をする。
国別による肺炎桿菌のうちのCRE(カルバペネム耐性腸内細菌)の割合は、ギリシャ68.2、中国7.7、日本0.2,アメリカ11だそうです。まだまだ、日本は少ないように見えますが、一度発症すると目に見えないうちにどんどんと広がっていってしまいます。今から対策を練っておかないと大変なことになります。
抗生物質の不適切な使用を止める
一人の人が同じ抗生物質を使い続けると、体の中で耐性菌ができその薬が効かなくなります。そして、次の抗生物質を使い、また耐性菌ができその薬が効かなくなります。そのうち、たくさんの抗生物質が効かない多剤耐性菌ができあがり、恐ろしいことにどの抗生物質も効かなくなります。
京都大学病院の取り組みだったと思いますが、「カルバペネム」と言う広域抗菌剤の使用を6年間で20%減らしたそうです。
腹膜炎などの原因細菌がわからない場合に使われますが、この病院では、6日間のみ限定的に使うようにしています。感染症の専門医が薬の変更の助言などしているようです。細かい対応をすることで、確実に多剤耐性菌が減るそうです。
製薬会社でも、多剤耐性菌対策として、医師への抗生剤の適切な使用方法を指導し始めています。
また、国レベルでの感染症対策が必要な時期に来ています。
感染制御チーム
病院内で、いつ、どこで、どんなタイプの耐性菌が出ているか、院内での耐性菌の広がりを監視する感染制御チームを組織して対応している病院もあります。
病院内の様子を可視化することで、院内の医師にもわかってもらえ、手洗いの強化など実際に行ってもらえます。危機意識を院内全体で共用することが大切のようです。
感染症対策の専門医が2000~3000人必要と言われています。また、大きい病院の感染症対策の専門医は、地域の中小病院の感染症対策にも力を尽くして欲しいと思います。
新薬の発見・発売が激減
新たな耐性菌が出ても、新薬を開発すれば対処できました。が、製薬会社が新薬開発に熱心でありません。抗菌薬が探索しつくされていること、新薬を開発してもすぐに耐性菌が出て、長期間に薬を売り続けることができず、もうからないからだそうです。
強力な耐性菌に対抗する薬がなくなったしまうので、国は新薬の開発支援策を考えて欲しいと昭和大学・二木芳人教授は、言われています。
抗生物質の開発は、1980年代がピークでした。この10年間は抗生物質の発見はないそうです。抗生物質の研究開発を止めた製薬会社は、15社で6割に当たるそうです。これらの会社は、ガンや生活習慣病の新薬開発の方へ切り替えたようです。
シオノギ製薬では、60年の抗生物質作りから撤退の話もありましたが、今までの経験は財産であることから、後5年は続ける方針になったそうです。その後は試行錯誤という感じです。製薬会社も新薬の開発につなげないと、会社の存続に関わりますから大変です。
鶏肉の半数から薬剤耐性菌の検出
厚生労働省の調査で、国産や輸入の鶏肉の半数から、抗生物質の効かない薬剤耐性菌が見つかったと、2018年3月31日に発表されました。免疫力が落ちた病人や高齢者らの体内に入って感染すると、抗菌薬による治療が難しくなると言います。
食肉検査所などで約550検体を調べたら全体の49%から耐性菌が見つかったそうです。家畜の成長を促す目的で抗菌薬を飼料に混ぜて与えられていることがあり、鳥の腸内の細菌の一部が薬剤耐性を持ち増えた可能性があるようです。家畜や人で、不要な抗菌薬の使用を控えるべきだと専門家は言っています。
耐性菌に限らず食中毒の予防のためにも、十分に加熱して食べることが大切です。
調査の結果、全体の49%から、「ESBL産生菌」か「AmpC産生菌」という耐性菌を検出しました。国産では59%、輸入品では34%でした。これらの耐性菌は、肺炎などの感染症治療に広く使われている「第3世代セファロスポリン薬」が殆ど効かないそうです。国内の患者の体内から検出されるケースが増えていることから、院内感染の原因になると懸念されています。
このまま放置すれば、2050年には、年間1000万人が死亡する予測もあり、WHOや日本を含む世界各国が協力して対策に乗り出しています。
CRE(カルバペネム耐性腸内細菌)
CRE(カルバペネム耐性腸内細菌)に含まれるものは、多くの種類があるそうです。中でも代表的な菌が3つほどあります。
- メタロ-β-ラクタマーゼ産生菌・・・大阪市内の大規模病院で、2011年から2014年3月までに114人が感染し、23人が死亡したようです。院内感染です。(セラチア、肺炎桿菌、その他の腸内細菌科細菌)
- NDM-1産生菌・・・下記に記しています。(大腸菌、肺炎桿菌、その他の腸内細菌科細菌)
- KPC産生菌・・・下記に記しています。(肺炎桿菌、その他の腸内細菌科細菌)
NDM1を作る多剤耐性大腸菌
2010年9月7日の読売新聞の一面に「新型耐性菌、国内で初検出」と大きく載りました。昨年5月中旬、インド帰りの男性が、NDM1(ニューデリー・メタロβラクタマーゼー)という遺伝子を持つ大腸菌に感染していました。この大腸菌は、ほとんどの抗生物質が効かないそうです。この男性は38度の熱も下がり治ることができました。
多剤耐性大腸菌に感染すると、最悪の場合は抗生剤が効かずに敗血症になります。NDM1を作る多剤耐性大腸菌の恐ろしいところは、健康な人にも感染することです。病院などでうつり、尿路感染を起こすそうです。高齢者や病気で抵抗力の落ちている人は、接触感染します。
予防には、手洗い、うがいが有効です。また、抗生剤の併用で効く可能性があるようです。健康な人には症状が出ないそうです。
NDM1を作る多剤耐性大腸菌は、細菌から細菌へも広がります。
多剤耐性アシネトバクター
帝京大学病院は、2010年9月9日、昨年8月から今年2月の計7人の感染者を足して、53人の感染者だったと発表しました。7人のうち4人が死亡しており、感染者の死亡は計31人となりました。
感染と死亡の因果関係が否定できないのは9人としてきていましたが、新たに判明した4人については、死亡との因果関係は調査中です。
9月8日、世田谷区有隣病院でも多剤耐性アシネトバクターに8人が感染し、うち4人が死亡したと発表しました。
多剤耐性アシネトバクターは、ほとんどの抗生剤が効かないそうです。病院内で2、3例出た段階で、食い止めなければなりません。病院全体を見通す感染症のプロが専従で病院全体を見ていくことが必要のようです。院内感染を防ぐためにも早期に患者を個室に移してケアすることが必要です。
帝京大学病院の場合
帝京大学病院では、過去10年間で多剤耐性アシネトバクターが院内で広がりつつあることを把握していました。ペニシリン系を筆頭に、抗生物質がだんだんと効かなくなっていることを把握していました。
2005年には56.3%が、2009年にはが66.7%が効かなくなっていました。これは、平均の6倍と言う異常値でした。
多剤耐性緑膿菌
東京都健康長寿医療センター(板橋区)では、多剤耐性緑膿菌に18人が感染し、このうち9人が死亡していました。うち、4人については因果関係が否定できないそうです。
同センターでは、多剤耐性アシネトバクターに3人が感染し、うち1人が死亡していたことが判明しました。2010年9月8日。
東大病院、多剤耐性緑膿菌
2010年11月22日、東大病院は、9月下旬から今月中旬にかけて、入院患者10人から多剤耐性緑膿菌が検出されたと発表しました。
このうち血液がん患者だった5人が死亡していますが、いずれも重症の患者で死亡と感染の因果関係ははっきりしないとしています。
同病院によると、亡くなったのは40~70歳代の男女で、5人のうち3人については、検出された菌の遺伝子が類似しており、院内感染の可能性が高いそうです。
三重の病院、多剤耐性緑膿菌
2010年10月16日、三重県立総合医療センターは、入院患者2人が抗生物質の効かない多剤耐性緑膿菌に感染し、死亡したと発表しました。
先月17日に肺炎で入院した70歳代男性から多剤耐性緑膿菌を検出。14日には肺炎で入院中の70歳代女性から多剤耐性緑膿菌が検出され、翌日敗血症による多臓器不全で死亡しました。
男性患者は、多剤耐性緑膿菌が検出されてから救急救命センターの隔離室に移していたが、女性は間仕切り越しの隣り合わせのベットで治療を受けていたそうです。
新型多剤耐性肺炎桿菌(KPC)
九州大学病院に入院していた女性患者から検出されたことが8日わかりました。女性(当時35歳)は、2008年4月、アメリカ、ニューヨークの病院から同病院へ転院しました。尿から肺炎桿菌が見つかりました。2009年に遺伝子検査をしたらKPCという抗生物質分解酵素を持つ多剤耐性肺炎桿菌であることがわかりました。
女性は多剤耐性肺炎桿菌による症状は出ず、抗菌治療は行われなかったそうです。その後検査は行われていないようです。現時点で、他の患者への感染は見つかっていません。
新型多剤耐性肺炎桿菌、国内2例目
2010年11月18日厚労省は、新型多剤耐性肺炎桿菌が松下記念病院(大阪市守口市)に入院中の40歳代男性から検出されたと発表しました。
この男性は、海外でけがをして手術を受け、10月末に帰国、松下記念病院に入院して検査を受けたところ、腹部と尿から新型多剤耐性肺炎桿菌が見つかりました。他の入院患者からは見つかっていません。
厚労省は、9月に多剤耐性菌の検出が相次いだことを受けて、全国実態調査を開始しており、同病院から報告がありました。
バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)
2011年1月19日、群馬県沼田市の利根中央病院の入院患者ら5人から抗生物質がほとんど効かないバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)が検出されたと発表しました。
5人のうち1人が死亡したが、病院では「食事中の嘔吐が原因の肺炎で亡くなっており、死亡とバンコマイシン耐性腸球菌・VREとの直接的な関係はない」としています。
病院は、1月7日から、保菌者のいる外科病棟で新規入院の受け入れを停止しました。