肺がん
肺がんと言えば男性のがん死亡率の1位、女性のがん死亡率の2位で、年間約6万人が死亡しています。そして、毎年6万6千人が肺がんを発症しているのです。
肺がんは遺伝よりも喫煙やアスベストなどの環境因子の方が、より密接な関連があるそうです。早期発見法、治療法などを学びたいと思います。
肺がんの早期発見法(症状など)
肺がんは中心型と末梢型に分けられるそうです。肺がんの心配な方は、できれば年2回の胸部X線撮影と喀痰検査を受けるとよいそうです。
- 中心型
- 咳や血痰が長引く、発熱、息苦しさ、胸の痛みがあるなどの諸症状が出ます。喀痰検査を受けます。
- 末梢型
- 症状が出にくい特徴があります。人間ドックなどで胸部X線検査(2㎝以上の物しか見つけられない)、CT検査(1センチ以下の物も見つけられる)
肺癌とタバコの関係
50歳以上の人で喫煙歴のある方は、1日の喫煙数×年数(喫煙指数)が400本以上の人は、特に注意が必要と言われています。肺門部に発生するがんの人は、喫煙指数が400を超える人たちがほとんどだそうです。
タバコを吸う人は、吸わない人と比べて肺がんの罹患率が、4~5倍高くなるようです。そして、寿命は約10年短くなると言われます。喫煙者の方は、すぐに禁煙外来に行かれることをお勧めします。
また、受動喫煙ですが、小さい頃から親がタバコを吸っていると肺癌のリスクが高くなります。
肺がんの検査
胸のX線検査、喀痰検査、血液検査(腫瘍マーカー)、CT検査などありますが、最新検査としては、簡単な呼気VOC検知器を使って肺がんの有無がわかるようになるそうです。匂いの成分でわかるようです。癌の匂いは人間にはわかりません。段々と呼気検査が導入されてくると思われます。2016.10
肺がんの治療法
肺がん楽天 の約90%は、非小細胞肺がんです。残りの約10%が小細胞肺がんです。非小細胞肺がんには、腺がん(男性肺がんの40%、女性肺がんの70%を占める)、扁平上皮がん(男性肺がんの40%、女性肺がんの15%を占める)、大細胞がん、腺扁平上皮がんなどがあります。
非小細胞肺がんの治療法
- 早期の場合
- 手術療法として、ガンのある場所を完全に取ります。肺がん患者全体の4割に手術が行われています。1箇所が2㎝以下だと区域切除となります。目玉焼きのように芯が小さい場合は、部分切除もあります。また、肺葉切除も行われます。(右肺は三葉、左肺は二葉の構造です)また、併せて放射線療法も行われます。手術は、自動縫合器という切りながら縫っていくという優れ物の機械が使われるようです。早期の場合、放射線療法だけでも完治する場合もあります。77歳男性の場合、定位放射線治療を受けました。台の上で1時間寝てるだけで、計4日間で終わり痛みは全くなかったそうです。
- 中期の場合
- 放射線療法と抗がん剤治療が併用されます。また、抗がん剤治療のみの場合もあるようです。
肺がん手術では、実施件数が多い施設ほど治療成績が良い傾向があるそうです。手術実績は病院選びの指標になります。
- 胸腔鏡手術
- 胸腔鏡手術は、体に小さな穴を数箇所開け、挿入した小型カメラの画像を見ながら手術器具を入れて行います。手術全体のほぼ半数を占めているそうです(2009年3月現在)。胸腔鏡手術は、傷が少ないので術後の痛みが少いが、開胸手術も小さな傷口で行うようになり入院期間や半年後の痛みに大差はないそうです。
早期放射線療法の条件
リンパ節転移がなく、5㎝以下の小さながんの場合は、手術ができます。高齢の患者が増えているので、心肺機能が低下している、他の病気がある、手術を希望しない場合に放射線療法が行われます。
また、早期の抗がん剤治療は、手術後の再発を抑制する場合に補助として使います。10~15%の再発リスクを下げると言われています。
- 定位放射線治療
- 手術に代わり、放射線をピンポイントでがんに照射して、治療効果を高めます。直径5㎝以下で転移のないがんが対象で、保険で治療できます。
進行性肺がんの治療法
リンパ線への転移があり、手術では取り切れない場合です。
- 放射線療法+抗がん剤治療
- 放射線療法は、治す可能性は低くても症状をやわらげる効果があります。週5回、月~金までを1~2ヶ月間行われます。患部の周囲に放射線をかけないように前後から患部をはさむように放射線をかけます。副作用としては、治療中には皮膚炎(日焼け)食道炎などが起きることがあります。治療後半から治療後には放射線肺炎(間質性肺炎を持っていると重症化しやすい)になることがあります。
- 抗がん剤治療
- 放射線療法が出来ない時には、抗がん剤治療だけを使います。また、他の臓器に広がった時にも、抗がん剤治療だけを使います。
ラジオ波焼灼療法(RFA)
岡山大学病院では、切除せずにがんを壊死させるラジオ波焼灼療法(RFA)に金沢右(すすむ)教授が中心になって取り組んでいます。
RFAは、電子レンジと同じ原理で、CTの画像を見ながら、鉛筆の芯の太さの電極を刺してラジオ波を出し、腫瘍内のイオンを振動させて60~100度の摩擦熱で癌を壊死させます。岡山大学病院では、2001年6月~2009年1月末までに398人に実施してきました。国内トップクラスの実績だそうです。
外科手術での切除に比べ、ラジオ波で焼く範囲は狭く、完治後の生活にも支障がでにくいそうです。心肺機能が低下し、外科手術が無理だった人でも治療が可能といいます。壊死した腫瘍は、繊維化するので、取り除く必要はないそうです。治療は2時間ほどで、入院も1週間ほどです。直径2cm以下のガンなら、8割ほどは再発せず、定位放射線治療などと変わらない成績です。
しかし、肝臓ガンでのRFAは保険適用ですが、肺がんは保険適用外で十数万円の治療費が必要とのことです。「これまで、外科手術ができなかった人には抗がん剤治療しかなく無力感があったが、RFAを切除や放射線治療と同じように、肺がん治療の3本柱に育てたいといわれています」 読売新聞「病院の実力」岡山編16から
肺がんの免疫療法の治療薬
がん細胞が体にできると、キラーT細胞(免疫細胞)が癌をやっつけてくれます。しかし、がん細胞もやられないように、免疫細胞にブレーキをかけるPD-L1という物を作り出します。免疫療法の治療薬は、そのブレーキをはずして、本来あるがん細胞を攻撃する力を活性化させます。
「キイトルーダ」
キイトルーダ(MSD)は、オプジーボ(小野薬品工業)に次いで2番目の免疫療法の治療薬です。非小細胞肺がんに2016年12月19日に使用が承認されました。発売は2~3ヶ月後になります。切除不能な進行・再発患者に対し最初に使えます。診断薬により、効く可能性が高い患者をより分けます。
がん免疫療法の問題点は、効く人には強い効果が出るが、どの人に効くかわからない点です。キイトルーダは、事前に診断薬を使って高い効果の可能性のある患者をより分ける方法を使います。未治療の患者の治験では、キイトルーダ使用と抗がん剤使用を比べたら、1年後にがんの進行が止まった人は、キイトルーダ群が48%、抗がん剤群が15%でした。1年後の生存率は、キイトルーダ群が70%、抗がん剤群が54%でした。キイトルーダの薬価はまだ決まっていないようですが、オプジーボの薬価引き下げ後に決められそうです。
「オプジーボ」
オプジーボは、2014年に皮膚がんのメラノーマの薬でした。2015年の末に肺がんの一部にも適用が広がりました。しかし、副作用と高すぎるのと薬価が問題でした。副作用は、間質性肺疾患、劇症1型糖尿病、甲状腺を悪くするなどが出たようです。
高すぎる薬価については、体重60kgの人なら1回180mgなので約133万円、高額療養費制度があっても患者一人最大で年200万円かかります。ほとんどの人は100万円かからないと言います。そして、約3300万円もの高額が保険事業者の負担になります。一人の肺がん患者のために1億6000万円かかることになるらしいです。そして、ついに2017年2月1日、オプジーボの薬価が50%引き下げられました。が、まだまだ高額ですね。
オプジーボは、2016年7月には、頭頚部がんへの適応拡大申請を、9月には腎細胞がんの適応承認、12月には古典的ホジキンリンパ腫の適応承認、同じく12月に胃がんへの適応申請が出されています。
テレビに出たある医師の話では、オプジーボは、免疫機能を活性化させ、副作用が少ない。皮膚がんの抗がん剤から、肺がん、腎細胞がん、乳がんにも期待されている。高額療養費を使っても年間約100万円ほどである。という話でした。
肺がんの抗がん剤治療
- プラチナ製剤
- シスプラチン、カルボプラチンのうち1つと、他の薬とが併用されます。他の薬とは、ゲムシタビン、パクリタキセル、イリノテカン、エトポシド、ピノレルビン、ドセタキセルです。3~4週間を1サイクルとして、4~6サイクル行われます。シスプラチンには強い吐き気や、腎機能が低下する副作用があるために入院の必要があります。カルボプラチンは、副作用が比較的軽いため、通院でも使われています。
- プラチナ製剤の副作用
- 血液検査でわかるものは、白血球や赤血球、血小板の減少、腎臓・肝臓機能障害などです。自覚症状としては、吐き気、しびれ、脱毛などがあります。薬によって副作用が違います。投与後すぐには急性の吐き気が出て、その後遅延性吐き気、次には口内炎や下痢、脱毛、しびれなどの順に出てくるようです。
- ゲフィチニブ(分子標的治療薬)
- 内服で治療できます。効きやすい人は、女性、喫煙歴なし、腺がん、アジア人です。肺炎がないかどうか調べてから服用します。手術をして取った組織を検査して遺伝子を調べます。EGFRの変異がありの人は、7割の人にガンが縮小するようです。商品名はイレッサです。分子標的治療薬の副作用は、間質性肺炎にかかりやすいことです。使用前に肺の機能をチェックしてから使います。重い肺炎が起きやすいからです。(喫煙歴あり、肺線維症あり、男性、扁平上皮がんの人、体力が弱っている人は要注意です)
- 新しい薬・ペメトレキセド
- 副作用が少なく、点滴時間が少なくてすみます。扁平上皮がんにはききにくいそうです。
イレッサ問題、2011年2月
大阪地裁は、イレッサの副作用を巡る訴訟で、被告の販売元・アストラゼネカに損害賠償を命じ、国の責任は認めない判決を言い渡しました。読売新聞の「イレッサ問題」医療情報部、高梨ゆき子さんの記事より。
イレッサは2002年7月の承認後まもなく、間質性肺炎による死亡例など重い副作用の症例が相次いで報告されました。抗がん剤治療には危険が伴うので、熟知した専門医による処方が必要です。しかし、体調不良の患者や他の抗がん剤との併用など標準治療を逸脱した例が目立ったそうです。7割以上が専門でない医師による不適切投与と思われています。イレッサは副作用が少ないとの評判が高まっていたし、飲み薬でもあり、歯科医も処方したと言われるほど安易な処方が拡大しやすい状況でした。全例調査をすべきだった。
イレッサと同じ分子標的治療薬の抗がん剤・ハーセプチン(2001年承認)やリツキサン(2001年承認)は、製薬会社が自主的に全例調査を実施しています。1999年に日本で開発された経口抗がん剤・TS-1でも、審査段階で国側と企業が協議し、全例調査をしています。イレッサは新成分を含み、経口薬で、国内治験の症例が133例と多くなく、世界初の承認でしたから全例調査していないと聞き、製薬の安全担当経験者は驚いたそうです。他の抗がん剤の副作用でも死亡例の報告はありますが、2002年だけで180人になったイレッサは突出しているようです。承認後3ヶ月で推計7000人という爆発的な売れ行きが背景にあるといいます。安全対策、情報提供が手薄であったことが、こういう事態につながったようです。
オーダーメード医療(抗がん剤について)
自分の遺伝子検査などを基に、自分の体質や症状に一番合った医療を行うオーダーメード医療が三重大病院などで行われています。
肺がんや大腸癌の抗がん剤「イリノテカン」の副作用が出やすいかどうかを調べる検査もあります。保険適用されているものもあるようなので、興味のある方は主治医に相談されてはどうでしょうか。
小細胞肺がんの治療法
小細胞肺がんは、全身へ転移しやすいので抗がん剤治療が行われます。また、脳に転移しやすいそうです。
限られた場所に小細胞肺がんがある場合は、抗がん剤治療と放射線療法を併用して治療がおこなわれます。小細胞肺がんが広がっている場合は、抗がん剤治療のみで行われます。
アスベスト肺がん
アスベスト・石綿が原因となっている肺がんが、労働者を中心に確実に増えているそうです。アスベスト・石綿を吸い込んでから30年~40年の潜伏期間があり、アスベスト肺がんの発症者は、今後さらに増えそうと言われます。
幅広い国民への知識の普及と、医師の診断技術の向上が急がれます。
アスベスト・石綿で、肺がんになるとは思わなかった
1997年に、夫を56歳で肺がんで亡くした女性(兵庫県尼崎在住)は、「アスベストで肺がんになるとはおもわなかった。主治医もまったく口にしなかった」と言います。
夫はアスベストを含む水道管などの溶接作業に30年間従事していました。2005年、クボタ旧神崎工場(尼崎市)周辺で健康被害が発覚して社会問題になり、「夫も仕事中に吸い込んだ、アスベストのせいではないか」と気づいたそうです。
労働基準局の調べで、病院に残っていた肺組織から、アスベストを大量に検出しました。夫の会社関係の証言もあり、2006年末、労災請求の時効(死後5年)を過ぎていても一定の保障を受けられる新法(石綿健康被害救済法)で認定されました。
2005年~2007年に労災か新法で石綿肺がんと認定された労働者は1819人。それ以前の累計は354人に比べ、格段に増えました。2009.5.17現在
関心持たない医師も
岡山労災病院福院長の岸本卓巳さんは「アスベストの怖さはクボタ被害を機に広まったが、肺がんへの認識はまだ不十分だ」と指摘しています。
現在の認定基準では、アスベストとの関連が極めて強いがんの一種「中皮腫」だと、ほぼ確実に認定されます。
肺がんは、喫煙などの他の要因もあるために、肺からのアスベストの検出、胸膜の内側を覆う胸膜の一部がふくれる「胸膜プラーク」の存在、職歴などで関連性を示す必要があります。
岸本岡山労災病院福院長は、港湾労働など暴露しやすい職歴がないかを丁寧に聞き、x線画像で胸膜プラークを探します。必要なら精密検査を行います。これまでに数十人の労災認定を手助けしました。
しかし、全ての医療機関でこうした診断が行われるわけではありません。明らかに関連する職歴があるのに、主治医に「たばこが原因だろう」とろくに調べてもらえず、岸本さんを訪ねて、石綿肺がんと判明した人もいました。2009.5.17現在
喫煙・たばこで、アスベスト・石綿肺がんのリスク大幅増に
- 胸膜プラーク
- 胸膜プラークは、白っぽいことが多く、肉眼ならわかりやすいが、厚さは5mm程度なので、X線画像では注意深く探さないと見落しやすい。CTの方が見つけやすいものの、経度だとCTでもわかりにくく、慣れが必要だそうです。
- 喫煙者
- 全国の労災病院の石綿肺がん患者135人を対象にした最近の調査で、喫煙者が90.4%を占めました。アスベストと喫煙が重なると、肺がんの発症リスクを50倍以上高めるという海外の研究もあるそうです。「アスベストに心当たりのある人は、こまめに検診を受け、もしタバコを吸っていたら、今すぐ止めて欲しい」と、岸本医師は言われています。2009.5.17現在
厳しい住民の被害認定
新法では、労災だけでなく、環境汚染による健康被害も救済対象になります。だが、アスベスト工場周辺の住民や労働者の家族などが肺がんになった場合は、労働者は職歴を考慮されますが、住民は住居暦を考慮されません。
環境省は、労働者と比べて暴露暦の把握が難しく、基準を設けにくいと、説明しています。
しかし、大阪府立公衆衛生研究所、衛生化学部長の熊谷信二さんは、2008年、岐阜県羽島市のニチアス羽島工場から約400m圏内で住民の死亡状況を調査しました。風向きなどからアスベスト濃度が高かったと推定される東南地域で、男性の肺がん死亡率が全国の2.94倍と高いことを明らかにしました。
熊谷さんは、「アスベストを扱う工場の周辺では、肺がん発症のリスクが高まると考えるのが自然。工場周辺に住んでいた肺がん患者は広く救済すべきだ」と、話されています。2009.5.17現在
中皮腫に遺伝子治療、岡大グループ
中皮腫は、アスベスト(石綿)の吸引などが原因となるガンの一種で、根治薬は見つかっていないそうです。岡大呼吸器科の豊岡伸一助教らのグループは、12月3日、悪性胸膜中皮腫の遺伝子治療の臨床研究を、学内の遺伝子治療臨床研究審査委員会に申請しました。
治療に使う遺伝子は、2000年に同大学で発見された「REIC」です。「REIC」は、がん細胞だけを直接殺す作用と、がん細胞なづを攻撃するNK細胞を活性化させる作用があることがわかっています。
今回の臨床試験は、投与量を5段階に分け、副作用の有無を確認しながら18~30人に対して実施します。2010.12.4