うつ病治療
現在、うつ病患者は100万人と言われているようです。抗うつ薬が効かない人が3人に1人と言われ、再発率が高いそうです。そして、うつ病は脳の病気であり、アメリカでは画期的な治療が始まっています。
NHKスペシャルで「ここまで来た!うつ病治療 診断と治療最前線」と題して放送していました。
うつ病治療
これまで、うつ病は「心のカゼ」と呼ばれ休養を取り抗うつ薬を服用すれば、半年から1年で治るとされましたが、現実には4人に1人が治療に2年以上かかり、半数が再発するそうです。
アメリカでは、脳に直接働きかけてうつ病を改善させる新たな治療法が試されています。
最新治療1、TMSという強力な磁気刺激
アメリカの74歳の男性は、若いころからうつ病で抗うつ薬を飲んできました。最近気分の落ち込みが激しくなってきました。抗うつ薬の副作用で、激しい吐き気もします。
ニューヨークのクリニック楽天 を訪ねました。「落ち込んだ人生に絶望した。もうダメだ」と、訴えました。
そこで、最新の治療を受けました。経頭蓋磁気刺激法(TMS)というものでした。
経頭蓋磁気刺激法(TMS)
経頭蓋磁気刺激法(TMS)は、頭の前の部分を磁気で刺激します。磁気で頭を刺激した時の指先の動きで、磁気を当てる正確な場所を探します。
そして、休みを取りながら40分間当てます。症状が治まるまで毎日当てます。本人は「少し疲れたけど、大丈夫」と言っていました。2日後から変化が見られました。
治療を受ける前より泣かなくなった。朝食が食べられるようになった。ちゃんと起きられた。生活のリズムが帰った。などの変化でした。
7割の患者さんが、この経頭蓋磁気刺激法(TMS)で、回復しているようです。
この経頭蓋磁気刺激法(TMS)が効かない人もいます。そして、継続して月に1回ぐらい受けている人が多いそうです。
日本でこの経頭蓋磁気刺激法(TMS)が取り入れられるまでには、数年かかりそうです。日本で、日本人に対しての安全性と効果を確かめる必要があるからです。
「DLPFC」という場所の活性化
磁気刺激について15年以上研究しているハーバード大学のアルバロ・パスカルレオーネ教授は、うつ病患者は前頭葉の血流が悪いので、磁気刺激で血流を増やすと、症状の改善が見られると言います。
「DLPFC」という場所が活性化すると、うつ病が良くなります。「DLPFC」は、背外側前頭前野という場所で、判断や意欲に関係する場所です。
- うつ病は、脳の中の扁桃体(へんとうたい)が暴走や過剰反応を起こしています。
- 扁桃体(へんとうたい)は、不安、恐怖、悲しみなどの感情が生まれる場所です。
- 「DLPFC」を、磁気刺激で活性化させることで、扁桃体にブレーキをかけることができます。
- 「DLPFC」は、判断や意欲を司る場所です。
経頭蓋磁気刺激法(TMS)を受けた患者さんは
アメリカの59歳の人は、10種以上の抗うつ薬を飲んできました。が、良くなりませんでした。そこで、経頭蓋磁気刺激法(TMS)を受けました。
1回目、この男性は、「悪くなかった、痛くなかった」と言っていました。
2日目、医療スタッフは、早くも変化に気づきました。ひげを剃り、シャワーを浴びていたからです。
1週間後、生活に変化が出ました。オープンしたハンバーガー屋に行けました。雨が降っていても気にならなかったそうです。
2週間後、体のだるさが消え始め、熟睡できました。朝も調子良かったそうです。
患者さんは、少しずつ症状が回復することで、運動や規則正しい生活をして、回復に向けた良い循環が生まれるそうです。
この男性は、人生を絶望の中で生きていくしかないと、あきらめていました。が、娘の2人の孫とも交流できるようになりました。症状の悪い時には、会うことを避けていたからです。
最新治療2、手術で脳に電極を入れ、脳深部刺激(DBS)
アメリカ、エモリー大学のヘレン・メイバーグ教授は、手術で頭に電極を入れ、脳深部刺激を行なっています。40人に施術したようです。そして、75%の人が症状が改善しました。
脳の中に電極を埋め込み、脳から胸にかけて電線を通します。胸元に埋め込んだ器具から、電気刺激を送ります。患者さんは、電極や器具は特に気にならないし、人生を返してもらったと喜んでいました。
- この治療では、脳の「25野」という場所に注目しています。
- 「25野」は、「扁桃体」と「DLPFC」をつなぐハブの役目をしています。
- 「25野」を刺激すると、「扁桃体」と「DLPFC」の2つを刺激して症状を改善し正常に戻します。
日本の最新診断法、光トポグラフィー検査
うつ病診断は、問診で行われますが、医師の経験などにより診断にバラつきが起きるそうです。最初うつ病と診断された人が、次の病院で軽い認知症の疑いと言われ、治療法はないと言われた人もいます。
その後、大学病院を受診し、光トポグラフィー検査を受けました。この人は、光トポグラフィー検査により、うつ病と診断されました。
誤診を防ぎ適切な治療につなげられると注目されている脳血流の画像診断装置・光トポグラフィー(NIRS)は、脳に近赤外線を当てて前頭葉の血流量の変化を測定します。
この検査をすると、「うつ病」と症状が似ている「双極性障害」や「統合失調症」とを客観的に見分けられるようになります。
質問に対して、思い浮かぶ言葉を考えます。そうすると、病気によって血液量を表すグラフが変わってきます。
健康な人は、3つぐらいの山ができ、だんだん血流量が増えます。
うつ病の人は、初めは少し上がりますが、血流量は平坦です。
統合失調症の人は、山の上がり下がりの振幅が大きくなります。
双極性障害(躁鬱病)の人は、山がたくさんでき、その山はだんだんと上昇していきます。
この検査は、うつ病の見逃しや誤診の予防に役立つと言われます。
「双極性障害」を「うつ病」と診断の例
ある男性は、双極性障害(そううつ病)なのにうつ病と診断されていました。光トポグラフィー検査では双極性障害(そううつ病を示していました。
うつ病と診断された人の中の4割以上に双極性障害(そううつ病が含まれていると言います。それは、どうしてもうつ状態の時に受診するからです。うつ状態の期間が長いこともあります。
そして、この誤診は、患者さんの命にかかわることがあるから大変です。抗うつ薬を飲んでいたが、大きい通りを渡っている時に歩道から飛び降りたい衝動にかられたと、言います。
原因は、抗うつ薬にあります。抗うつ薬は落ち込んだ気分を高める働きがあります。が、欝から躁になった時に、気分がかさあげされ、命の危険にさらされることもあります。
「うつ病の診断基準」、精神疾患の診断マニュアル・DSM
アメリカで作成されたDSM(精神疾患の診断マニュアル)の「うつ病の診断基準」は、次の9症状のうち5つ以上が2週間以上続く場合にはうつ病と診断されます。
- 抑うつ気分・・・気分の落ち込みを感じる。
- 興味、喜びの著しい減退・・・全ての活動に対して興味や喜びを感じない。
- 体重減少か増加、または食欲減退か増加・・・この1か月で5%以上の体重の減少か増加がある。
- 不眠または睡眠過多・・・不眠または過眠(10時間以上)がある。
- 精神運動静止または焦燥・・・何をするにも億劫で辛く感じ、仕事をするのに時間がかかるようになった、または焦燥感でイライラしたりする。
- 疲労感または気力の減退・・・やる気が出ない、すぐに疲れてしまう。
- 無価値感または罪責感・・・自分を無価値な存在と感じて自信がなかったり、過度に自分を責めることが多い。
- 思考力や集中力の減退または決断困難・・・考えるのに時間がかかり、決断ができなくなった。
- 自殺念慮等・・・生きるのが辛く、死について考えることがよくある。
言葉の力で治す
言葉の力でうつ病を治すには、カウンセリング(認知行動療法)があります。比較的症状が軽い人や発症して間もない場合に良いそうです。
認知行動療法とは、うつ病などの心の病気をもった人が、いろいろな出来事に出会った時の「行動」や「考え方(認知)」に注目し、それらを良い方向にコントロールする治療法です。
・仕事でミスをして気に病んでいる時、認知行動療法で見方を変えれば、1%仕事ができなかっただけ、99%はできていると、前向きな考えになります。
・うつ病の人はへんとう体が暴走し、すぐに不安や悲しみの感情がわきあがってきます。認知行動療法で訓練を重ね「DLPFC」を鍛えると、「DLPFC」が前向きな考えをして、扁桃体にブレーキをかけて不安や悲しみを抑え込みます。
うつ病の予防
うつ病の予防として、扁桃体を自分でコントロールする方法があります。アメリカのローリエット脳研究所で行われているそうです。
画像を見ながら、楽しかったことを思い出し、扁桃体が良い状態になるようにします。ある人は、パリ旅行を思い出しました。脳の活動がリアルタイムで見えるようになったからできるようになりました。
自分で扁桃体をコントロールできる力をつければ、脳の病気だけれど心で治すことができます。
日本での磁気刺激治療は、神奈川県立精神医療センター芹香病院(きんこうびょういん)で行われています。薬で1年以上改善しない患者さんの中から、条件を絞って磁気刺激を行っているようです。
野菜中心の食事で自殺リスク半分に
2013年12月9日、国立国際医療研究センターなどのチームが、野菜、大豆、海草、キノコなどの健康的な食生活をしている人は、そうでない人に比べて自殺をするリスクが半分になるとの調査結果を発表しました。
40~69歳の男女約9万人を対象に、食事の傾向を調査、平均で8.6年追跡したようです。この間に249人が自殺しました。
対象者に134種類の食品や飲み物をどれぐらいの頻度で摂取するか調べました。そうすると、「健康型」・・・野菜や大豆、「欧米型」・・・肉やパンやジュース、「日本食」・・・ごはんや味噌汁、の3つに分けられました。
「健康型」の食事をする傾向の強さに応じて対象者を4つのグループに分け自殺との関連を調べると、健康型に最も傾向が強いグループは、最も弱いグループと比較して自殺のリスクが5割少ないことがわかりました。「欧米型」「日本食」でも同様の分析をしたが、こうした差はなかったと言います。
過去の研究では、葉酸やビタミンCがうつ病を予防するとの結果があり、健康的な食品は、これらの栄養素を多く含むために自殺が少なかった可能性があると言います。
病歴など食事以外の影響も考慮して調整したそうですが、食事の好みの変化や家族の自殺歴などは調べておらず調査に限界があるとしています。