肝臓がん
肝臓がんと言えば、お酒の飲み過ぎか、C型肝炎ウイルスに感染後になりやすいという程度の知識しかありませんが、実際はどうなのでしょうか。
男性の癌死亡の第4位、女性では第6位を占めている肝臓がんについて詳しく調べてみたいと思います。全国で1年間に3万人以上が肝臓がんで亡くなっています。罹患数は年間約4万5000人で、男性は女性の約2倍となっています。
肝臓がんとは
肝臓は、成人で800~1200gと体内最大の臓器で、ここには多種類の悪性腫瘍ができます。
この悪性腫瘍は、原発性肝がん(肝臓から発生したがん)と転移性肝がん(他臓器のがんが肝臓に転移したがん)に大別されます。
肝臓は沈黙の臓器と言われており、病気になっても自覚症状がほとんどなく異変に気づきにくいそうです。全身のだるさ、みぞおち付近の痛み、黄疸などが出ることもありますが、初期には表れにくいようです。
原発性肝がんは、肝細胞がんが約90%、胆管細胞がんが約5%を占めます。男性では45歳から増加し始め、70歳代に横ばいとなります。女性では55歳から増加し始めます。年齢別にみた死亡率も同様な傾向にあります。
日本でのがん死者の臓器別では、肝がんは4番目に多くなっています。しかし、今では治療法が進歩し、生存率が伸び死者数も減っているそうです。
肝臓がん楽天 の原因
日本では、肝細胞がんの60%がC型肝炎ウイルス HCV、11%がB型肝炎ウイルス・HBVの持続感染に起因すると言われています。このため、日本の肝がんの予防としては、肝炎ウイルス感染予防と、肝炎ウイルスの持続感染者に対する肝がん発生予防が柱と言われます。
ウイルスが原因でない肝臓がんも増えているそうです。アルコール性肝硬変と非アルコール性脂肪肝炎です。また、糖尿病や高血圧、脂質異常症を合併した症例が増えていると言います。節酒や生活習慣の見直しが必要です。
B型・C型肝炎ウイルスの感染について
- 妊娠・分娩
- 妊娠・分娩を介して「肝炎ウイルスを持った母親」から子供へという感染経路があり、垂直感染と言います。現在は、妊娠中の母親は血液検査でB型、C型の肝炎ウイルスの有無を必ず調べています。母親がB型ウイルスの保菌者だと新生児には直ちにワクチン治療が行われます。
- 血液製剤
- 肝炎ウイルスを含んだ血液の輸血を受けると、輸血を受けた人の身体に肝炎ウイルスが侵入します。輸血を受ける時は、病気・けがなどで身体の抵抗力が低下していることが多く、肝炎が高率に発症します。
- 性行為
- 性行為もウイルス感染の経路となる可能性があります。しかし、B型肝炎やC型肝炎の夫婦間感染率は低いようです。ただし、B型肝炎にはHBe抗原が陽性の場合は感染力が強いそうで、医師に相談されると良いでしょう。
- 注射針
- 医師・看護師などの医療従事者が、採血時や検査・処置・手術中などに肝炎ウイルスを持つ人の血液がついた針を誤って自分の皮膚に刺す、針刺し事故や、集団予防接種での針の再利用、入れ墨・針灸治療などに使った針の使いまわし、麻薬注射のまわし打ちなどで起こる感染のことです。
肝臓がんとB型肝炎ウイルス
肝細胞がんの11%がB型肝炎ウイルスに起因するものと言われています。B型肝炎が原因の肝臓癌はまったく減っていないそうです。
そして、B型肝炎に起こる肝臓癌は、若い人に多いということで問題になっています。
簡単な血液検査でわかるので、ぜひ検査を受けてください。すでにB型肝炎ウイルスに感染している方は、自分の病状を把握されることが重要です。ウイルス量の多少、肝炎や肝臓癌の有無を定期的にチェックしましょう。
肝臓がんとC型肝炎ウイルス
C型肝炎ウイルスの感染の可能性のある人は、「健康診断で肝臓が悪いと言われた」「1992年以前に輸血を受けた」「大きな手術を受けたことがある」「出産時に大量出血があった」といった人たちがあげられます。
C型肝炎に罹った人の23%が肝硬変に、14%の人が肝臓がんになっています。1922からは慢性肝炎のうちにインターフェロン治療で治すことが始まりました。それ以降も、ペグインターフェロンと抗ウイルス薬との併用で高い治療効果が上がっています。
小さい肝臓がんは自覚症状がないため、血液検査と併せてCTやMRI検査の画像検査も同時に行うとよいそうです。
そして、再発を防ぐためにも肝臓ガンが治った後にも、インターフェロンが使える人は使うことで、肝臓がんの再発率が2割ほど減少したそうです。
肝臓がん症状
肝がんに特有の症状は少なく、肝炎・肝硬変などによる肝臓の障害としての症状が出ます。
食欲不振、全身倦怠感、腹部膨満感、便秘・下痢など便通異常、尿の濃染、黄疸、吐下血、突然の腹痛、貧血症状(めまい・冷や汗・脱力感・頻脈など)などです。
肝がんの症状といえば、肝臓の部位に「しこり」や痛みを感じます。また、突然の腹痛、貧血症状は、肝がんが破裂・出血したときに出る症状です。
肝臓がんの検査
- 画像診断
- 超音波検査、CT検査などが行われます。
- 腫瘍マーカー
- 肝がんの腫瘍マーカーとしては、AFP(アルファ型胎児性タンパク)やPIVKAIIなどが用いられます。肝がんの腫瘍マーカーは、肝がんでも陰性のことがあり、また、肝がん以外の肝炎・肝硬変だけでも陽性のことがあり、全面的に信頼できるわけではないそうです。
- 針生検
- 超音波検査で肝臓内部を見ながら、細い針を腫瘍部分に刺し、少量の腫瘍組織を採取します。
定期検診の間隔は、肝炎ウイルスに感染しているだけの人は、6ヵ月に1回、採血や超音波検査などを行います。
肝炎ウイルスの感染、肝機能に異常がある人は3~4ヵ月に1回、採血や超音波検査などを行い必要に応じてCT検査などを受けます。腫瘍マーカーが上昇している場合には、さらに頻繁に検査する場合があります。
肝臓がんの治療
- 外科療法
- 肝切除、肝移植などが行われます。腫瘍が3cmを超えると肝切除、3cm以内なら患者さんと相談して決めるそうです。開腹してがんを直接見ながら切るので、取り残しの可能性が低いです。しかし、体への負担は比較的大きく高齢者には危険性も高まります。腫瘍を切除しても肝臓に残ったウイルスの影響で、約20%の人は1年以内に再発するとされています。治療の度に肝機能は低下します。肝切除とラジオ波治療を使い分けながら根気強い治療が必要だそうです。大腸癌が肝臓に転移した場合にも、手術が行われています。
- 穿刺療法
- 経皮的エタノール注入療法やラジオ波焼灼療法が行われます。ラジオ波治療は、体の外から肝臓に針を刺し、針先を電磁波で高温に熱してがんを焼き殺します。体への負担は少ないです。医師の技術が求められます。がんの数が3個以内なら、手術かラジオ波のどちらかを選びます。しかし、癌が一つでも3cmを超えたら手術か肝動脈塞栓術が勧められます。ラジオ波治療などは、手術の2.5倍になったようです。 ラジオ波治療は、東大、近畿大、大阪赤十字病院の順で件数が多いそうです。(2010.11)
- 肝動脈塞栓術
- 肝動脈塞栓術とは、がんに酸素を供給している血管を人工的に塞ぎ、がんを兵糧攻めにする治療法です。
- その他
- 放射線療法は、骨に転移した時などに疼痛緩和を目的として行われることがあります。最近では陽子線、重粒子線などの放射線治療が、肝がんの治療に適応されることもあります。化学療法は、肝切除や穿刺療法、肝動脈塞栓術などの治療で効果が得られない場合などに行われることがありますが、治療効果があまり高くないそうです。
肝臓がんの治療指針
肝機能 | がんの数・大きさ | 治療法 |
---|---|---|
比較的良い | 3個以内、すべて3cm以内 | 手術 ラジオ波治療 |
比較的良い | 3個以内、3cmを超えるガンがある | 手術 冠動脈塞栓 |
比較的良い | 4個以上、大きさは関係なし | 冠動脈塞栓 |
比較的悪い | 3個以内、すべて3cm以内 1個だけの場合は5cm以内 |
肝移植 |
比較的悪い | 4個以上、大きさは関係なし | 緩和治療 |
岡山済生会総合病院、藤岡真一肝臓病センター長の話 2013.5
「岡山医療健康ガイド メディカ」に、肝がんのラジオ波焼灼術を行なっている岡山済生会総合病院の肝臓病センター長の藤岡真一ドクターの話が載っていました。
- ラジオ波焼灼術の詳しいやり方
- 局所麻酔をかけ電極針(直径約1.5mm)を皮膚から病巣まで刺します。両太ももに対極板を貼り付けておいて、ラジオ波を5~10分ほど通電します。針先の温度を約100度まで高めがんを熱凝固、壊死させます。治療は約30分で、入院は5日程度です。術後3時間で歩けるし、夕食も食べれます。しかし、腸管や血管を傷つけないように細心の注意が必要で、それには、経験と技術が必要です。術後2時間で採血し出血していないかしていないか検査します。MRIかCTで焼灼具合を確かめるそうです。難しいケースでは、ソナゾイド造影剤を術中に使い、高精度の画像で確認します。治療効果判定には、プリモビストMRIを使います。その結果、術後の5年生存率は60~70%と言います。
ラジオ波焼灼術の適応は、がんが3cm以内、3個以下です。焼灼は、1日1個で、複数ある時には5日ほど開けて焼灼します。肝がんは再発しやすいそうで、再発を抑えるには、原因を取り除く療法が重要です。B型肝炎ウイルスが原因なら、核酸アナログ製剤を使い、焼灼術の後に、毎日内服していれば、生存期間の延長ばかりか再発予防にもなります。
C型肝炎ウイルスが原因の場合には、インターフェロンを中心にした抗ウイルス療法になります。しかし、2014年末には、ウイルスを陰性化できる画期的な内服薬DAAが使われだすと言われています。
肝臓がんとアルコール
1日5合以上飲む飲酒家家は240万人いて、そのほとんどの人が肝障害を起こしているそうです。飲んだお酒の90%以上が肝臓で分解されます。そのために肝臓に負担が来ます。
肝臓にはアルコールを分解する酵素・CYP2E1があり、毎日飲酒していると増加します。そして、さらに大量に強いお酒が飲めるようになります。そして、アルコールを分解する酵素・CYP2E1は、発がん性物質の生成促進にも働くことがわかりました。毎日の飲酒で、この酵素が6~7倍増えると、発がん性物質も6~7倍多く作られることになります。
お酒を飲まない人を1とすると、お酒を3合以上飲む人は、食道がんで約16倍、肝臓がんで約2.51倍、胃がんで約1.84倍もガンができやすいことがわかっています。
2001~2002年の調査では、アルコール性肝障害の約8%に肝臓がん、約43%に肝硬変、約31%に脂肪肝を認めたと報告されています。また、長期の飲酒によって肝硬変になるとそれがガンの発生原因ともなります。
くれぐれもお酒の飲み過ぎには気をつけてください。
肝臓がんと肥満
貯まってはいけない所に脂肪がたまる異所性脂肪で有名なのが、内臓脂肪です。異所性脂肪がたまると糖尿病や高血圧のリスクが高くなります。
肝臓は、体に必要な物質を作る、解毒作用、栄養素の貯蔵などの働きがあります。
60年前には日本人男性には肥満はほとんどなかったそうです。そして、1980年以前は肝臓に脂肪がたまったようなガンはほぼなかったそうです。
今、男性の約7割は肥満傾向にあり、検診では4人に1人が肝臓に異所性脂肪が貯まっていると診断されています。その半数は肝障害があり、肝臓がんで亡くなった方の、2~3%は、肝臓に脂肪がたまった後に癌ができています。20年後には、10%前後まで増えるのではと危惧されています。
メタボ検診で肝臓の数値がちょっと悪いと言われた人は、医師に相談してください。1年くらいかけて減量します。食事制限が一番大事だそうで、男性は1700~1900kca、女性は1400~1700kcalぐらいの制限にすると、自然に減量できるようです。やせることで、肝臓病のリスクを減らし、ひいては肝臓がんのリスクも減らせるそうです。
B型肝炎救済、最高2500万円、国の和解案
2010年10月12日、乳幼児期の集団予防接種でB型肝炎ウイルスに感染したとして、患者らが、全国10地域で国に損害賠償を求めているB型肝炎訴訟で、札幌地裁の和解協議が開かれました。
国側は、未発症の持続感染者(キャリアー)をのぞく原告に、1人当たり最高で2500万円を支払う和解案を提示しました。
厚労省によると、全国で約3万3000人推定される患者・死者への保障は、約3100億円になります。約44万人とされるキャリアーへの医療費補助、新たな肝炎の発症や症状の悪化などを想定すると、30年間の財政負担は、最大約2兆円になるとの試算も公表しました。
原告側は、薬害C型肝炎では、キャリアーを含めて1人当たり1200万~4000万円の給付が決まったことから、命の値段に差をつけるのは許されないとして、同等の補償を主張しました。国側は、原告の主張通りだと最大約8兆円が必要としています。
B型肝炎救済の国の和解案とC型肝炎との比較
B型肝炎の和解案 | C型肝炎の救済額 | |
肝硬変(重症)、肝がん、死亡 | 2500万円 | 4000万円 |
肝硬変(軽症) | 1000万円 | |
慢性肝炎 | 500万円 | 2000万円 |
持続感染者(キャリアー) | 政策対応 | 1200万円 |